いろいろな言葉について、私見を交えつつまとめます。
⇒ サイト信頼性エンジニアリング (site reliability engineering)
1992年にウォード・カニンガム(Ward Cunningham)が "Shipping first time code is like going into debt" とコードの初回リリースを負債に例えたことが発祥らしい1。要約すると「一度理想的な状態から離れた状態のコードを作ってしまうと、その理想との差異に以降ずっと苦しめられ続ける。これは負債のようなものである。もちろん、事業の最初にはお金を借りるように、理解の足りない最初にコードを理想から離れたものとして作るのはよい。しかし、いずれリファクタリングによって理想に近づけていきやすい(=負債を返しやすい)ように、当初段階からその時の理解を最大限反映させるべきである」といったところであろうか。
但し、このキャッチーな言葉は広く使われるようになり、2020年現在では「古い時代のフレームワーク上に作っていて動かし続けるのが困難になったソフトウェア」「古い時代のデザイン論で作られたために現代から見て難解で保守が困難になっているソフトウェア」あたりを指して使われることが多い印象。カニンガムによる原義のほうを「本来の」「前の」を表すゲルマン語系の接頭語ur-をつけて ur-technical debt と呼ぶことが提案されたりもしているようである2。
略してSoR、SoEとも。米国のマーケティングコンサルタントであるジェフリー・ムーア(Geoffrey Moore)が2011年に発表した白書『絆のシステムと企業ITの未来』3にて提唱した概念。
記録のシステムは、大量のデータを正確かつ効率的に記録、蓄積し、用途に応じて計算や加工を行い、必要な形式で出力することを任務とするシステムである。一方、絆のシステムは人間や物事の間の結びつきを作ったり深めたりすることを任務とするシステムである4。
Googleで生まれ、布教されているソフトウェアエンジニアの新たな職種。頭字語でSREと呼ばれていることが多い。Googleから本が出ている5ので、定義などはこれを参照すればよい。かねてからDevOpsという名前で「分離していた開発者と運用者の溝を埋める」ことが言われていたが、それに代わるバズワードの感がある。曰く、サイト信頼性エンジニアリングは、DevOpsという原理の現実への一つの実装手法とのことである。
私の今の理解を簡単に述べると、「開発を行うソフトウェアエンジニアが運用を設計し、サービスの信頼性を保つこと」であろうか。ここで「信頼性を保つ」は、可用性(availability)、遅延(latency)、性能(performance)、変革管理(change management)、監視(monitoring)、緊急対応(emergency response)、能力計画(capacity planning)に対して責任を持つことを指す。「運用」を「信頼性を保つ」に言い換えただけな気がしないでもない。なお、「サイト(の)信頼性」の名がついているのは、当初Googleのサイト信頼性エンジニアチームが「google.comというウェブサイト」の信頼性を守るためのチームだったことに由来するとのこと。しかし、手法の適応対象はWebサイトに限られず、広く(分散計算機プラットフォーム上で動く)「サービス」である。
ラテン文字の書体分類の一つ……として理系界隈で通用している言葉。LaTeXだと\mathscr
で出てくるような、線が細く丸い筆跡が優美な手描き風書体($\mathscr{ABCD}\dots$)を指すの。理系の人間にこの言葉が通じなかった経験はないほどには普及しているようだが、どのような経緯でこの名前で通用するようになったかは不明。というのも、英語圏では「手書き文字」を意味する「スクリプト体」(script typeface)、中でもフォーマルなスクリプト体(formal scripts)と呼ばれている書体であり(\mathscr
のscrはscriptから来ている)、花の要素はないからである。また、印刷業界方面の文書でも「花文字」という単語を見たことがない。でもこの字形を見て「花文字」と呼びたくなる気持ちは個人的によくわかる。
数学では「○○」と「○○の集合」のように同じ物に関する階層の異なる概念が出てくることがよくあり、それぞれを表すのに同じ文字の別書体を使ったりする。たとえば、「開集合族$\mathscr{O}$の元である開集合$O$」のように。そのため、「普通の書体」「太字」「黒板太字」「花文字」「ドイツ文字(フラクトゥールのこと)」など様々な書体が登場するのである。
お前も技術的負債にしてやろうか! もしくは技術的負債と和田卓人さんをめぐるシンクロニシティ - YAMDAS現更新履歴 ↩
Geoffrey Moore, Systems of Engagement and the Future of Enterprise IT (2011) ↩
英語のものは無料公開されている(オライリーから印刷版も出ている)。和訳は『SRE サイトリライアビリティエンジニアリング――Googleの信頼性を支えるエンジニアリングチーム』(オライリー、2017年)。 ↩
最終更新: 2021-02-19 03:53:34 +0900
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